スイス連邦チューリッヒ州における学校組織の構造と、 支援が必要な生徒に対する支援体制について。
法律の建付け
スイスでは学校教育の最低限の枠組みは国が定めていますが、 実際の教育体制については州が定めています。 チューリッヒ州では Volksschulgestz (VSG; 義務教育学校法) が教育に関する州の法律で、 その下に政令が定められています。
- Volksschulverordnung (VSV; 義務教育学校令)
- Verordnung über die sonderpädagogischen Massnahmen (VSM); 教育特別措置令
州が法律・政令を定め、 その実施は郡(Bezirk)と基礎自治体(Stadt, Geminde; 市区町村)に委ねられます。
学校の組織構造
教育の現場で実際に生徒と接するのは各クラスの教師ですが、 基礎自治体内にはその上に2階層の上位機関が存在します。
組織・役職 | 役割 |
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Klassenlehrer:in | クラス担任 |
Schulleiter:in | 校長 |
Schulpflege | 教育委員会 |
クラス担任を管理する管理職として Schulleiter:in(校長)が存在し、 さらに校長を監督する部署として Schulpflege(教育委員会)が設置されています。
Schulleiter:in(校長)
私の村では、 初等教育(幼稚園・小学校)を担当する校長は3人いて、 それぞれ異なる分野を管掌しています。
分野 | 詳細 |
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開発・組織 | 長期戦略、ならびに時間割の策定 |
執行 | 予算、人事、教室割当、クラス編成、広報 |
特殊教育分野 | 支援が必要な生徒に関する教員配置など |
学校教育に関する意思決定は、 原則として校長レベルで行われます。
Schulpflege(教育委員会)
教育委員会は教育には直接は関わりませんが、 校長の人事査定や予算編成、 また課外授業の申込受付などの実務も担当しています。
教育委員会は委員長1名と委員5名で構成され、 委員長は村議会議員から割り当てられます。 残りの委員は村の有権者による投票で選出されます。
Schulpsychologischer Dienst(教育心理機関)
Schulpflege(教育委員会)- Schulleiter:in(校長) - Lehrer:in(教員)という上位関係とは独立した機関として、 郡(複数の基礎自治体から構成される行政単位)に Schulpscychologischer Dienst(教育心理機関)という組織が存在します。 ここには教育心理学を修めた(大学修士課程修了)教育心理学士がいて、 専門家の立場から生徒・親・学校に対して助言を行います。
また校長・教員間、 教員・親の間で対策に対する意見の食い違いがあった場合など [1] に専門家の立場で議論に介入します。
学校における支援体制
特別な支援が必要な子供(身体が不自由だったり、発達障害がある場合など)に対しては、 義務教育機関が必要な支援を行います。 まずは通常のクラス内での対応を試み(IF; Integrative Förderung)、 それが不可能な場合に初めて特殊学校への転入などが検討されます。
支援の法的基盤は Volksschulverordnung (VSV; 義務教育学校令) の第2項です。
- Schülerinnen und Schüler haben ein besonderes pädagogisches Bedürfnis, wenn ihre schulische Förderung in der Regelklasse allein nicht erbracht werden kann.
- Besondere pädagogische Bedürfnisse entstehen vor allem aufgrund ausgeprägter Begabung, von Leistungsschwäche, des Erlernens von Deutsch als Zweitsprache, auffälliger Verhaltensweisen oder von Behinderungen.
(私訳)
- 通常クラスにおける支援のみでは特別な教育上の要求を満たせない場合、 その生徒は特別な教育上の必要があるとされる。
- 特別な教育上の必要はギフテッド、学業不振、第二言語としてのドイツ(母国語がドイツ語でない場合)、異常な振る舞いや障害によって生じる。
通常クラス内での支援は、 クラス担任と子供の支援に関する訓練を積んだ Schulische Heilpädagoge:in(SHP; 補習教師)が協力して行います。 補習教師は教育内容の策定や生徒の成績策定などに関与します。
クラス担任・補習教師・親の間で意見不一致があった場合には校長が意思決定を行い、 その裁定に不満がある場合には教育委員会に話が持ち込まれます。