スイスに10年間滞在し、 いくつかの条件を満たすとスイス市民権(国籍)を申請することができます。
日本は二重国籍を認めていないため、 スイス市民権が認められると同時に日本国籍を失います。 私個人はCパーミット(永住権)で十分なのと日本国籍を維持したかったのでスイス市民権取得は考えていませんでしたが、 調べてみたところ、 どうも子供の進路が見えてきた時点で検討が必要なようです。
Cパーミットを取得すれば、 スイスにいる限りはスイス人と同等の経済的権利を享受できます。 就職や起業も制約がありません。 しかしスイス国外に出た瞬間にCパーミットの利点は全て消えます。
たとえばスイス市民権保有者であれば、 相互協定に基づきEU/EFTA加盟国へ転居し就学・就職することができますが、 Cパーミット保持者はスイス国外では通常の日本人と同等の扱いになるため、 滞在したい国から個別に許可を取得する必要があります。 特に就労は原則として専門職や管理職でないと認められないため、 EU/EFTAにある企業でインターンを行ったり就職することが難しくなり、 進路の選択肢が狭まります。
もうひとつ問題なのがCパーミット失効条件を定めた 外国人統合法 第61条 の第2項です。
(原文)
Verlässt die Ausländerin oder der Ausländer die Schweiz, ohne sich abzumelden, so erlischt die Kurzaufenthaltsbewilligung nach drei Monaten, die Aufenthalts- und Niederlassungsbewilligung nach sechs Monaten. Auf Gesuch hin kann die Niederlassungsbewilligung während vier Jahren aufrechterhalten werden.
(私訳)
外国人が国外転出届けを行わずにスイスを出国した場合、 Lパーミットは3ヶ月後、 B/Cパーミットは6ヶ月後に失効する。 Cパーミットは、4年間維持することを請願することができる。
たとえばドイツの大学・院に進学し4年間以上スイス国外に滞在することになった場合、 スイスの滞在許可が失効するため、 卒業後にスイスに戻ってこられる保証がありません。
スイスでは市民権を取らずにCパーミットで滞在する外国人も多いですが、 これで困らないのは、 人の移動の自由が保証されたEU/EFTA市民権を持っている場合の話ですね。 私はともかく子供は引き続き欧州に住むことになると思うので、 いずれかの時点でスイス市民権を申請した方が良さそうです。
検討タイミング
チューリッヒ州によると、 スイス市民権の取得には手続きを始めてから2年前後かかるとのこと。 市民権が必要になる3年前には申請を始めておく必要があります。
子供がスイス国外の大学に進学、もしくは外国企業で就労(インターン含む)する可能性がある場合
大学進学のことを考えると、 子供が中学校を卒業するタイミングでスイス市民権取得の手続きを始める必要があります。 未成年の子供にのみスイス国籍を取得させることは現実的ではないので、 この場合は家族でスイス国籍を取得(=日本国籍を喪失)することになります。
退職後に私や妻が日本に戻りたいとなった場合、 すでに日本国籍を喪失しているため外国人として日本に滞在することになりますが、 私たちは「日本人の配偶者等」(日本人の子として出生した者)という在留資格を申請できるため、 大きな制約なく日本滞在が可能です。 その後でスイスや欧州諸国を訪れる際には、 スイス人として訪れることになるため滞在期間などの制限はありません。
子供が20歳過ぎまでスイスにいることが確実な場合
スイスでは18歳で成人のため、 これ以降は子供自身でスイス市民権取得の手続ができます。 この場合、 当然ですが親は日本国籍のまま子供だけスイス国籍を取得することが可能です。
退職後に私や妻が日本に戻りたいとなった場合、 日本人として問題なく帰国可能です。 その後でスイスを訪れる際には日本人としてスイスに入国することになるため、 観光客同様に滞在期間が制限されます。 なおスイスに長期滞在したい場合には、 スイスに縁がある年金生活者として滞在許可を申請することができます (参考: Einreisebewilligung für Rentnerinnen und Rentner beantragen)。
比較表
子供の就学・就職
スイス市民権取得 | する | しない | 備考 |
---|---|---|---|
スイス | ○ | ○ | Cパーミットで問題なし。 |
EU/EFTA | ○ | ✕ | スイス国籍があれば滞在許可不要。 日本国籍で一定期間スイスを離れると帰国できなくなる。 |
その他 | △ | ✕ | 日本国籍で一定期間スイスを離れると帰国できなくなる。 |
子供が日本で生活することは想定していません。 スイス育ちだと、 おそらく日本企業で働くのは文化的に違いすぎて難しいので。
親の引退後の生活
スイス市民権取得 | する | しない | 備考 |
---|---|---|---|
日本 | △ | ○ | スイス国籍でも在留資格「日本人の配偶者など」で在留申請可。 |
スイス | ○ | △ | 日本国籍でも「スイスに縁がある年金生活者」として滞在申請可。 |
二重国籍
二重国籍に関する議論になると「日本と外国と、どちらに忠誠を誓うのだ」といった極端な話になりがちですが、 実際に海外在住者が二重国籍を求めるのは、
- 育った環境にいつでも戻ってこられるようにしたい。
- 事業・就学・就職で不利益を被らないようにしたい。
- 親子が一緒に住めることを保証したい。
といった、 極めて現実的かつ切迫した理由によります。
私も子供のことを考えるとスイス国籍取得を検討する必要があるけれど、 別に日本を捨てたいわけではないです (むしろ老後は日本に戻る可能性も高い)。 日本国籍保有者が他国籍を取得することを認めてもらえると、 いろいろ葛藤せずに済むので助かるのですが。