スイス永住許可申請(本人)

日本人がスイスに住んで働くためには、 州から許可を得る必要があります。 私は現在、 転職や転居に制限がある Aufenthaltsbewilligung(滞在許可、通称Bパーミット)という資格で滞在していますが、 制限がない Niederlassungsbewilligung(永住許可、通称Cパーミット)に切り替える申請を提出しました。 その際に調べたことと、 実際に行った手続きを記録として残しておきます。

なお申請条件は本人の状況によって大きく異なり、 また詳細は時々変更されるため、 他人の体験をそのまま自分のケースに流用することはできません。 必ず連邦法や各州移民局の最新情報を確認して下さい。 本文中に、私が参考にした公式情報へのリンクを張ってあります。

おおまかな手順は次の通りです。

  1. 申請条件を満たしていることを確認する。
  2. 申請に必要な書類を集める。
    • 現地語能力の証明には、指定された試験を受けて合格することが必要。
    • その他の書類は、雇用者や適切な政府機関に発行を依頼。
  3. 必要書類を持って申請窓口に行き、申請書を記入する。

追記

  • 2021年8月25日 移民局から追加の書類提出が要求されたので、 書類入手方法手続き を更新しました。

目次

滞在許可の種類

スイスにおける外国人滞在許可は「外国人統合法 [1]」によって規定されています。 その中でスイス企業で雇用される日本人向けに発行される滞在許可は、 次の3種類です。

Lパーミット (短期滞在許可、Kurzaufenthaltsbewilligung)

主にスイス国内の企業で、有期雇用で働く外国人とその配偶者、子供に発行されます。 契約上は期限の定めがない無期雇用でも、 当初はLパーミットが発行されることがあります。

  • 転職は原則不可。 重大な理由があり、 かつスイス・EU・Cパーミット保持者に該当者が見つからないなどの条件を満たす場合のみ可 (第38条 第1項)。
  • 1年以内の滞在用で、2年まで延長可能 (第32条)。 その後も引き続きスイスに滞在する場合Bパーミットの発給を受ける必要があるが、 発給を受けられる保証はない。
  • 州内の転居は自由 (第36条)、 他州への転居は転居先の州から事前の許可が必要 (第37条)。
  • 配偶者と未成年(18歳未満)の子供にもLパーミットの発行をリクエスト可 (第45条)。 発行された場合、配偶者と子供は就労不可 (第46条)。
  • 発行時の条件を満たさなくなったり、 社会保障を必要とする状況になった場合には、パーミットは取り消される (第62条 第1項)。
  • 税金は源泉徴収され、その他、不動産の取得などにも制限がある。

Bパーミット (滞在許可、Aufenthaltsbewilligung)

主にスイス国内の企業で、無期雇用で働く外国人とその配偶者・子供に発行されます。

  • 転職は、 特定企業での雇用が発行時の条件として設定されている場合は不可 (第62条 第1項)だが、 そうでなければ可 (第38条 第2項)。 起業は条件付きで可 (第38条 第3項)。
  • 1年以上の滞在用。 滞在期限は1年もしくは2年だが、 取消事由に該当していない限り延長可能 (第33条)。
  • 州内の転居は自由 (第36条)、 他州への転居は、 失業しておらず滞在許可取消事由に該当していない限り可能 (第37条)。
  • 配偶者と未成年(18歳未満)の子供にもBパーミットの発行をリクエスト可 (第44条)。 発行された場合、配偶者と子供は就労可 (第46条)。
  • 発行時の条件を満たさなくなったり、 社会保障を必要とする状況になった場合には、パーミットは取り消される (第62条 第1項)。
  • 税金は源泉徴収され、その他、不動産の取得などにも制限がある。

Cパーミット (永住許可、Niederlassungsbewilligung)

スイスに原則10年間滞在し、 さらに一定の条件を満たすとCパーミットに切り替えられます。 L/Bパーミットが特定の目的(就労など)のために期限を区切って発行されるのに対して、 Cパーミットは目的・期限とも無制限です。

  • 転職、起業が可能 (第38条 第4項)。
  • 滞在期限、目的は無制限 (第34条 第1項)。 ただし5年毎に事務的な更新手続きが必要 (第41条 第3条)。
  • 転居は、 州内外を問わず滞在許可取消事由に該当していない限り可能 (第36条第37条)。
  • 配偶者と未成年(18歳未満)の子供にはBパーミットが発給される (第43条)。 配偶者と子供は就労可 (第46条)。
  • 被扶養者が長期に渡り相当な社会保障を必要とする場合には、パーミットは取り消される (第63条 第1項)。
  • スイス人と同様に税金の源泉徴収もなくなるため、 自分で見込額を支払い、 確定申告で最終的な税額を確定して過不足分を調整することになる。 不動産取得にも制限がなくなる。

永住許可申請の条件

Cパーミットを申請できる条件は

  • 家族構成
  • 国籍
  • 年齢
  • 居住している州
  • 雇用状況
  • これまでの滞在資格と滞在年数
  • 既婚者の場合には、配偶者の国籍・滞在資格
  • 未成年者の場合には、親権者の国籍・滞在資格

などによって異なります。 特にスイス国籍保持者と結婚している場合やEUや米国・カナダなど特定の国籍を有している場合には、 条件が大きく異なります。

またCパーミットは家族であっても個別に審査・発行されます。 夫婦と子供が全員Bパーミットでスイスに滞在している場合、 うち一人だけがCパーミットを申請し、 残りは引き続きBパーミットで滞在という場合もあります。

スイスにおける外国人滞在許可は「外国人統合法 1」で規定されていますが、 Cパーミット申請条件の詳細は「受入、滞在、就労に関する指令 [2]」で定められており、 さらに各州が法律・指令の枠内で条件を設定しています。

チューリッヒ州の場合、 州政府の公式サイトにある Migration & Integration > Einreise und Aufenthalt > Dauerhafter Aufenthalt & Niederlassung に公式情報がまとまっています。 以下の情報は、 主にチューリッヒ州移民局が発行した 永住許可(2021年5月28日発行)という文書に基づきます。

通常申請

日本人は、通常10年間の滞在後にCパーミットを申請できます。 チューリッヒ州でCパーミットを申請するための条件は次の通りです [3]

  • 合計10年間、直近5年間連続してL/Bパーミットでスイスに滞在している (第34条 第2項a)。
  • 犯罪や債務不履行を犯してない (第34条 第2項b)。
  • 直近5年間、職業に従事している。
  • ドイツ語能力がA2以上 [4]
  • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていない。

社会統合成功に基づく早期申請

Cパーミットの申請には通常10年間の滞在が必要ですが、 一定の条件を満たすと5年間の滞在で申請することができます [5]。 この場合、 申請者本人だけでなく配偶者にも条件が課せられます。

通常申請と早期申請で異なる部分を太字で示します。

  • 申請者本人
    • 直近5年間、連続してBパーミットでスイスに滞在している第34条 第4項)。
    • 犯罪や債務不履行を犯してない。
    • 直近5年間、職業に従事している。
    • ドイツ語会話能力がB1以上、読解・作文能力がA1以上。
    • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていない。
  • 申請者の配偶者(夫婦の一方のみが永住許可を申請する場合)
    • 犯罪や債務不履行を犯してない (第34条 第2項b)。
    • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていない。
    • ドイツ語能力がA1以上。

日本人夫婦の子供もCパーミットを早期申請することが可能ですが、 この場合もほぼ同様の条件になります。 また独身者には別途条件が定められています [6]

永住許可早期申請に必要な書類

Bパーミットで滞在している日本人夫婦が永住許可を早期申請する場合、 次の書類が必要になります [7]

日本人が社会統合成功に基づく永住許可早期申請を行う場合

  • 申請者本人
    • 犯罪経歴証明書(移民局が取得する)。
    • 過去3年間の居住地における債務回収台帳の抜粋。
    • 過去5年間の職業従事証明書。
    • 指定機関 [8] が発行する、ドイツ語会話能力B1以上、読解・作文能力A1以上であることの証明書。
    • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていないことの証明書。
  • 申請者の家族
    • 犯罪経歴証明書(移民局が取得する)。
    • 過去3年間の居住地における債務回収台帳の抜粋。
    • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていないことの証明書。
    • 指定機関 8 が発行する、ドイツ語能力A1以上であることの証明書。

なお同居家族が一定年齢以下の場合、 必要書類が一部省略されたり変更になります。

日本人夫婦の子供が社会統合成功に基づく永住許可早期申請を行う場合

  • 申請者(子供)
    • 未就学児童
      • 親の申請に含まれる。
    • 12歳未満の就学児童
      • 学校での振る舞いに関する情報、良好な社会統合(ドイツ語能力の評価を含む)を証明する学校当局からの確認書と成績表。
    • 12歳以上の未成年者
      • 有罪判決を受けておらず、刑事訴訟が提起されていない証明書。
      • 学校での振る舞いに関する情報、良好な社会統合(ドイツ語能力の評価を含む)を証明する学校当局からの確認書と成績表。
    • 16歳以上の未成年者
      • 過去3年間の居住地における債務回収台帳の抜粋。
      • 職業訓練の契約書(職業訓練を開始している場合)。
  • 申請者の家族
    • 家族、特に両親の社会統合状況を勘案する。
    • 父母いずれかが永住許可早期申請が可能で、他方がドイツ語能力A1以上。かつ、社会統合上の問題がないこと。

申請事例

以下は、 私が早期申請制度を利用してCパーミットを申請した際の記録です。

前提

  • 日本人夫婦+義務教育就学年齢の子供。全員日本国籍のみ保有。
  • 家族全員、Bパーミットで6年半連続してスイスに滞在。
  • 本人のみ、社会統合成功に基づく永住許可早期申請制度を利用してCパーミットを申請。

必要書類一覧

申請者本人

  • 直近5年間の職業従事証明書
  • 債務回収台帳の抜粋(原本)
  • ドイツ語B1検定試験の合格証明書(コピー)
  • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていないことの証明書

申請者の配偶者

  • 債務回収台帳の抜粋(原本)
  • ドイツ語A1検定試験の合格証明書(コピー)
  • スイス滞在全期間を通して、社会保障による支援を必要としていないことの証明書

申請者の子供

  • 学校での振る舞いに関する情報、良好な社会統合(ドイツ語能力の評価を含む)を証明する学校当局からの確認書。

書類入手方法

書類入手方法
職業従事証明書勤務先から採用年度の入った雇用証明書を取得。
債務回収台帳の抜粋オンライン で申請書を作成し、必要書類とともに郵送。数日後に郵便で送られてきました。
ドイツ語能力証明書私は telc、妻は fide の試験を受けて取得。
社会保障を必要としていないことの証明書現居住地のものは申請時に手配されるので不要。前居住地のものは当地の社会福祉局に問い合わせ。数日後に郵便で送られてきました。
学校からの確認書学校当局に問い合わせ。当局が教師に事情を聞いた上で確認書を作成し、それが郵送されていました。

手続き

申請

チューリッヒ州における永住許可の申請窓口は、 チューリッヒ州の公式ページ によると居住地の住民課です。

原文

Wo muss die Niederlassungsbewilligung beantragt werden?
Das Gesuch um Erteilung der Niederlassungsbewilligung muss in jedem Fall persönlich bei der Einwohnerkontrolle des Wohnorts eingereicht werden.

私訳

永住許可はどこに申請する必要がありますか?
永住許可の発行を希望する人は、いかなる場合でも、居住地の住民課で申請する必要があります。

雇用証明書、債権回収台帳の抜粋、ドイツ語能力証明書を用意して村役場の住民課を訪ね、 「社会統合成功に基づく永住許可早期申請」を行いたい旨を伝えました。 住民課の職員が、 私と家族の情報ならびに提出した書類を確認の上、 申請書を作成して印刷。 私はそれに署名して、 手数料を支払って手続き終了です。

この後の手続きですが、 提出した書類と署名した申請書は村役場から州の移民局に送付され、 そちらで審査されます。 審査に通れば永住許可が発行され、 二、三週間で州移民局から村役場に永住許可証が届くとのことです。

追加書類要求

チューリッヒ州移民局から、 前居住地でも社会保障を必要としていないことの証明書、 ならびに子供の社会統合に関して学校からの確認書を追加で提出するようにとの手紙が送られてきました。 夏休みということもあり書類を揃えるのに時間がかかりましたが、 要求されたものを揃えて移民局に郵送。

なお学校からの確認書では、 次の点に触れられていました。

  1. ドイツ語は聞く・話す・書く・読むの4分野とも年齢相応で、 学習目標に到達している。
  2. クラスに統合されていると同時に、 学外でも友達と交流がある。
  3. 他者とよく交流し、会話を妨げない。
  4. 学校ではドイツ語のみでコミュニケーションしている。

裏を返すと、 ドイツ語が年齢相応に伸びていなかったり、 外国語を話す子どもたちだけで集団を作っていたりすると、 社会統合が不十分と見なされるということでしょう。

費用

今回のCパーミット申請にかかった費用は合計で約6万5千円です。

内容単価対象者
語学試験 fide250 SFr配偶者
語学試験 telc B1137 EUR本人
債務回収台帳の抜粋18 SFr本人・配偶者
Cパーミット申請費用122 SFr本人

私はドイツ語B1の試験は数年前にドイツで受験済みだったので、 その証明書を使いました。

州や基礎自治体をまたいで転居している場合には、 債務回収台帳の抜粋や社会保障利用履歴を転居前・後の両自治体から取得する必要があるため、 必要な書類やコストが増えます。


  1. Bundesgesetz über die Ausländerinnen und Ausländer und über die Integration; AIG  ↩︎

  2. Verordnung über Zulassung, Aufenthalt und Erwerbstätigkeit; VZAE 

  3. 永住許可 4.永住許可の通常授与 

  4. 受入、滞在、就労に関する指令 第60条 (永住権の授与)では、 永住権申請に必要な現地語能力は会話A2、読解・作文A1以上となっていますが、 チューリッヒ州はともにA2以上を要求するようです。 

  5. 永住許可 5.社会統合成功による永住許可の早期授与 

  6. 永住許可 5.3.1 独身成人の場合 

  7. 永住許可 5.3.必要書類 

  8. telc, Goethe, ÖSD, SDS, TestDaF, KDE もしくは fide。  ↩︎

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