ドイツ語圏の国における連邦政府構造

スイスの新型コロナウイルス対策の決定過程を報道で見ていると、 次のような流れになっています。

  1. 連邦内閣か対策案を出す。この時点で詳細が報道される。
  2. それに対して、州政府、連邦議会や業界団体などが意見を述べる。
  3. 場合によっては連邦議会が勧告決議を採択する。
  4. 連邦内閣が対策案を修正して、法案として議会に提出。
  5. 議会が法案を可決し、実施。

日本だと内閣総理大臣を本部長とする新型コロナウイルス感染症対策本部が最終的な意思決定を行いますが、 意思決定がなされる前にすでに調整が済んでいるので、 だいぶ異なります。

そもそもスイスの行政機関がどうなっていて、 誰がどのタイミングで意思決定をしているのか把握していなかったので、 少し調べてみました。

スイスの連邦政府構造

トップ不在

スイスは議院内閣制ですが、 日本と比べると連邦議会の力が強く、 多くの政策の実施には議会の同意が必要です。

連邦議会は国民議会 (Natinalrat) と全州議会 (Ständerat) の二院制で、 いずれもスイス国民の投票によって議員が選出されます。 議会で政府機関のトップである連邦内閣閣僚が7名選ばれます。 この7名の枠は議席数に応じて各政党に配分されますが、 現在は主要政党の四政党で分け合っています。

連邦内閣閣僚は行政機関のトップである連邦内閣 (Bundesrat) を構成します。 閣僚はそれぞれ特定の省庁を所管しますが、 閣僚間での上下関係はなく、 日本の総理大臣に相当する役職はありません。

政府を代表する国家元首が決まっていないと困る場面もあるため、 連邦内閣閣僚の互選により一名が連邦大統領 (Bundespräsident) を兼務します。 国内的には特に他の閣僚に優越する権力はなく、 任期は一年で連続して大統領を務めることはありません。

日本の内閣総理大臣のような行政府の長がおらず、 したがって議会でも内閣総理大臣を擁し政策実現に協力的な与党と、 反対の立場の野党という明確な対立軸がありません。

スイスの連邦政府の主要機関・役職名

ドイツ語日本語構成
Nationalrat国民議会(下院)国民代表
議席数は有権者数に比例(最低1議席)
Ständerat全州議会(上院)各州代表
議席数は各州2
Bundesrat連邦内閣議会で選出
閣僚数は政党ごとに議席数に応じて割当
Bundespräsident連邦大統領連邦内閣閣僚が持ち回りで担当
Bundesverwaltung連邦行政機関内閣を除く行政機関をまとめた呼び方
Bundeskanzlei連邦評議会事務局連邦官庁をとりまとめる事務局
日本の内閣官房相当
Bundeskanzler/in連邦評議会事務総長連邦評議会事務局のトップ
議会で選出

連邦内閣(Bundesrat)とほぼ同じ意味で、 連邦政府(Bundesregierung) という単語も使われます。

ドイツ・オーストリアとの比較

ドイツ、オーストリアでは幅広い行政権を持つ首相が存在します。 首相は議会の解散権を有するため、 議会と内閣は時に協力し時に相互牽制する関係にあります。

国ごとの単語の意味の違い

ドイツ語圏の国では、 同じ単語が異なる行政機関・役所に使われており、 注意が必要です。

意味スイスドイツオーストリア
上院StänderatBundesratBundesrat
下院NationalratBundestagNationalrat
閣僚BundesratBundesminister/inBundesminister/in
首相Bundeskanzler/inBundeskanzler/in
大統領Bundespräsident/inBundespräsident/inBundespräsident/in
内閣官房BundeskanzleiBundeskanzleramtBundeskanzleramt
内閣官房長官Bundeskanzler/in

特に Bundeskanzler/in はスイスとドイツ・オーストリアで位置づけが全く異なり、 Bundesrat はドイツでは下院ですがオーストリアでは上院と反対の意味になります。

また同じ役割の組織であっても、日本語の訳語が異なります。 日本だと内閣官房に相当する組織が、 首相が存在しないスイスでは連邦評議会事務局、 オーストリア・ドイツでは連邦首相府となります。