書名 | 歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか |
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著者 | 大治朋子 |
出版社 | 毎日新聞出版 |
ISBN | 978-4620326382 |
テロ行為、 本書の定義によれば「何らかの政治的、思想的、感情的目標を成し遂げるために実行される、無辜の市民に対する意図的暴力」は、 以前は高度に組織化された団体が、 時間と資金をかけて実行するものでした。
しかし近年は、 ローンウルフ(一匹狼)と呼ばれる個人による犯行が増えています。 それまでテロ組織と関係のなかった個人が、 急激に過激化し、 銃や車両を武器に凶行に及ぶ。
なぜそのようなことが起きるようになったのか、 どのように人は過激化するのか、 実際にテロを実行するところまで行き着く人間と行かない人間の違いは何なのか。 この疑問をいだいた著者による調査と思索の結晶です。
著者は毎日新聞で報道に携わった後、 イスラエルの大学院に留学しテロ対策などの研究に従事したという経歴の持ち主。 当該大学院には純粋な学術畑の人間だけでなく、 情報機関や治安機関関係者なども講師・学生として集まっていることもあり、 書籍の内容もジャーナリズム、アカデミズムとインテリジェンスの領域を行き来していますが、 プロのジャーナリストらしく語り口は極めて平易で読みやすい。
著者の結論は、 ローンウルフは「一般人とは無縁な凶暴な犯罪者」ではなく、 「普通の人」が過激化した結果であり、 状況が揃えば誰にでも起きうるというもので、 その状況を分析し、 過激化に至る過程をモデル化しています。
背景には人間の認知の構造的な歪みがあり、 そこに現代固有の要素として SNS や動画リコメンデーションによる情報バブル形成、 個人による情報発信の容易化、 激しい感情を惹起する映像・ナラティブの洪水などが組み合わさり、 ローンウルフの発生につながっているという分析。
テロ対策というと大事ですが、 個人のレベルでも、 報道や情報への接し方、 他人が発しているSOSを見つけて対応する必要性など、 考えるところが多い一冊でした。