スイスの健康保険制度

保険証

スイスに転居することになった人、 ならびにスイスの医療システムに興味がある人向けに、 被保険者の観点からスイスの健康保険制度について概説します。 2015年に書いたもの の改訂版。

スイスの医療費は世界でもトップクラスに高いですが、 怪我や病気の際には必要な治療が受けられるよう、 社会全体でリスクを分散するための皆保険制度が敷かれています。

日本とスイスの比較

皆保険

スイスも日本も、 居住者は原則として健康保険に加入する義務があります。

健康保険が適用される病気や治療方法・薬に関しては国が規制しており、 また既往症があっても保険加入を拒まれたり高額な保険料を請求されることはありません。

保険者

日本では、加入する健康保険に選択の余地はありません。 雇用状況と年齢によって加入する健康保険が決まります。 たとえば民間企業の被雇用者であれば健康保険組合もしくは協会けんぽ、 フリーランスや退職者は国民健康保険に加入することになります。

スイスでは、 各人が民間の保険会社と契約します。 どの保険会社と契約しても保険でカバーされる治療の内容や、 自己負担と保険会社の負担割合は変わりませんが、 保険料や事務処理の容易さ (後で記述しますが直接請求制度に対応しているか否かや、 英語での問い合わせに対応しているかなど)、 顧客対応の品質に差があるため、 必ずしも保険料の安い保険会社が人気が高いわけではありません。

保険料

日本では保険料は税金と同様に所得に応じて増えます。 また会社員・公務員が加入する健康保険では、 被保険者の収入によって生活している家族がいる場合、 被扶養者として保険料を支払わずに健康保険に加入することができます。

スイスでは保険料は所得とは無関係に決まり、 また扶養制度はありません。 子供であっても個別に健康保険に加入する必要があります。

診療費

日本では現役世代は自己負担一律三割(保険負担七割)ですが、 スイスでは最初は全額負担、 医療費支出が一定額を超えて初めて保険会社が一部負担します。

日本・スイスとも、 高額な治療費がかかった場合には上限が設けられており、 また病気によっては費用負担を抑えるための制度が設けられています。 細かくなるので、詳しくは触れません。

基本健康保険 (KVG)

スイスの健康保険の詳細を見ていきます。 スイスの健康保険は法律で加入が義務付けられている基本健康保険と任意で加入できる追加健康保険がありますが、 まずは基本健康保険から。

基本健康保険はスイス連邦法 832.10 Bundesgesetz übder die Krankenversicherung で規制されています。 略称として Krankenversicherungsgesetz(健康保険法)や KVG が使われ、 またこの法律に基づいた基本健康保険のことも KVG と呼ぶことがあります。

スイス在住者は、原則として基本健康保険に加入する義務があります。 例外は3ヶ月未満の短期滞在の場合と、 ならびに海外赴任などでスイスに来ており基本健康保険と同等もしくはそれ以上の保険でカバーされている場合です。

なお加入義務があるにも関わらず基本健康保険に加入していない場合、 州政府がランダムに保険会社を選んで強制的に契約します。

適用範囲

基本健康保険では、 連邦政府によって保険が適用される病気や治療方法・薬が定められています。 日本と同様に標準治療はほぼすべてが基本健康保険で対応できると思って間違いありませんが、 歯の治療は対象外です。 日本と同様、健康診断や一部の予防接種もカバーされません。

保険料

日本と異なり基本健康保険は民間の保険会社によって提供され、 個々人が保険会社と契約します。

保険料の算定を完全に民間企業に任せた場合、 保険会社は健康でリスクが低い人に対して安い保険料を提示すると同時に、 慢性疾患があるなど医療費が多くなることが見込まれる人に対しては高額な保険料を請求、 もしくは契約そのものを断る可能性があります。

こうなると本当に保険が必要な人ほど保険に加入できず経済的に困窮することになるため、 保険料の算定にあたっては次の情報しか用いてはいけないことになっています。 また保険会社が加入を断ることもできません。

  • 年齢
  • 性別
  • 居住地域

日本では使われているのに、スイスでは使われていない情報は所得です。 日本は所得が増えると保険料が増える(応能負担)制度ですが、 スイスではあくまでリスクに応じて保険料を負担する(応益負担)制度になっています。 また専業主婦や子供を扶養者として無料でカバーする制度もありません。

保険会社は基本健康保険によって利潤を上げることは禁止されており、 被保険者が支払った保険料と必要経費+保険金支払い額は均衡します。 保険会社によって加入者層や経費が異なるため、保険料も異なります。

保険料の割引制度

専門医の診察を受ける方法に制約を設けることで、 保険料が割り引かれます。

素人判断で間違った専門医にかかったり、 診断が気に入らないからと複数の専門医をハシゴすること(ドクターショッピング)を防ぐことで保険からの支払いを抑制し、 保険料の値下げにつなげています。

Standard

制約なしの基本モデルです。 割引はありません。

Telmed

医師の診察を受ける前に、 保険会社のコールセンターに電話をかけます。

コールセンター側で詳しい情報が必要だと判断した場合、 保険会社が雇っている医師から折返し電話が来て、 電話越しに診察を受けることになります。 医師が対面での診察が必要と判断した場合、 通院の承認を受けます。 通院先に関してはコールセンターで紹介してもらうこともできますし、 自分で探して承認を依頼することも可能です。

また承認が一度降りると、 その病状に関しては数ヶ月間はコールセンターに再度連絡することなく通院可能です。

Hausarzt

家庭医を決め、最初の一回はその家庭医に診察を受けます。 家庭医が必要と判断した場合、専門医に紹介されます。

なお例外として、 眼科医と婦人科医に関しては家庭医を通さずに直接受診可能です。 また緊急時には最寄りの医療機関で診察を受け、 それから家庭医に連絡すれば構いません。

HMO (Health Maintenance Organization)

Hausarztモデルと同様ですが、 家庭医は保険会社指定の医師から選択する必要があります。 また一部の町には保険会社が医師を集めた診療所を設置しており、 そちらで診察を受けることも可能です。

Multimed

保険会社 CSS が提供しているモデルで、 Telmed と HMO を合わせたものになっています。 体調のことで相談したいことがある場合、 家庭医にかかるか、 電話でコールセンターに問い合わせるかを都度選択できます。 家庭医とコールセンターで情報を共有。

Multimed の特徴として、 診察を受けた際の自己負担額 (Selbstbehalt) (後述)が低くなっています。

参考: Multimed – Hausarzt mit Telmed verbinden

診察料

日本では一度目の診察から自己負担三割・保険負担七割(現役世代の場合)ですが、 スイスでは自己負担額がステージによって次のように変わります。

累計額自己負担割合保険負担割合
免責額まで十割なし
自己負担額上限まで一割九割
それ以上なし十割

免責額、自己負担額とも暦年で計算します。

免責額 (Franchise) まで 自己負担十割

スイスでは一定額までは全額自己負担となります。 この金額を免責額 (Franchise) といい、 一定の範囲内で加入者が選択することができます。 免責額を増やせば保険料支払額は少なくなり、 逆に免責額を下げれば保険料支払額が上がります。

免責額は大人は 300 SFr から 2'500 SFr まで、 子供は 0 SFr から 300 SFr の間で選択できます。

免責額から自己負担額 (Selbstbehalt) 上限まで 自己負担一割

医療費が免責額を超えると、 被保険者の自己負担額 (Selbstbehalt) は一割になります。 自己負担額の上限は 700 SFr ですが、 CSS の Multimed の場合のみ 400 SFr に引き下げられます。

自己負担額 (Selbstbehalt) 上限以降 自己負担なし

さらに自己負担額が一定額を超えると、 そこからは先は全額保険負担となります。

医療費負担割合事例

具体的な数字で計算してみます。

仮に免責額300SFrとした人が治療を受け、 600SFrの医療費がかかったとすると、 負担割合は次のようになります。

金額自己負担保険負担
最初の 300 SFr十割 (300 SFr)なし
次の 300 SFr一割 (30 SFr)九割 (270SFr)
合計330 SFr270 SFr

入院して10'000 SFr の治療費がかかったとすると、 次のようになります。

金額自己負担保険負担
最初の 300 SFr十割 (300 SFr)なし
次の7'000 SFr一割 (700 SFr)九割 (6'300 SFr)
次の2'700 SFrなし十割 (2'700 SFr)
合計1'000 SFr9'000 SFr

日本では医師に診察を受けると、 初回から自己負担額は3割で、 残りの7割は保険組合負担です(現役世代の場合)。 診療費自体が安く抑えられていることもあり、 軽い風邪でも気軽に医師に行けます。

一方スイスでは一定額までは全額自己負担で診療費も高額なため、 軽症の場合には自宅で休んだり、 薬局で薬を買って済ませることが多いです。 しかし本当に高額な医療費がかかる場合には、 保険が手厚く負担する制度になっています。

診察料支払

日本では診察後に窓口で本人負担額(現役世代では三割)を支払い、 残りは病院・診療所が健康保険に請求します。

スイスでは通常、 病院で支払は行いません。 保険会社が直接請求制度 (Direktabrechnung) に対応している場合、 病院は保険会社に請求書を送り、 保険会社が自己負担分を計算して加入者に請求します。 直接請求制度に対応していない保険会社の場合は、 病院から加入者に請求書が届き、 加入者が一度全額を支払った上で、 保険会社に保険金の請求を行います。

なお血液検査などを行う場合、 病院では採血だけ行い、 実際の検査は外部の検査機関に委託していることが多いです。 この場合、 外部の検査機関から別途請求書が届きます。

保険料事例

大手保険会社 Sanitas での2020年の保険料を参考につけておきます。

被保険者プロフィール

  • 男性
  • 40歳
  • チューリッヒ市内在住
  • 被雇用者
  • HMOモデル

ケース1 健康な場合

費目金額 金額(日本円概算)
免責額(年)2'500 SFr291,000円
保険料(年)3'563 SFr442,000円

ケース2 健康な場合

費目金額 金額(日本円概算)
免責額(年)300 SFr35,000円
保険料(年)5'002 SFr578'000円

健康でまったく病院にいかない場合でも、 保険料として年間 3'563 SFr を支払う必要があります。

一方で持病があり免責額・自己負担額を上回る治療費の支払いがある場合、 保険料として年間 5'002 SFr、 免責額として 300 SFr、 自己負担額として 700 SFrの合計 6'302 SFr を支払うことになります。

事例保険料免責額自己負担額合計
ケース13'563 SFr0 SFr0 SFr3'563 SFr
ケース25'002 SFr300 SFR700 SFr6'002 SFr

健康な場合と治療費がかさむ場合とで、 自己負担額には1.8倍程度の差しかないことが分かります。

追加健康保険 (VVG)

追加健康保険は、 強制加入である基本健康保険 (KVG) で保障されないリスクをカバーするための保険です。 スイス連邦法 221.229.1 Bundesgesetz über den Versicherungsvertrag で規制されているため、 略称として Versicherungsvertragsgesetz (保険契約法)や VVG が使われます。

基本健康保険と異なり加入は任意で、 保険でカバーされる内容も保険会社ごとに異なります。 また保険会社は、 既往歴や医師の診断書を保険料算定ならびに引受可否の判定に用いることが出来ます。 罹病して診療が想定される状況では保険会社が引き受けを断る、 もしくは保険適用範囲からその病気に関する治療を除外する特約を設定するため、 健康な内に加入しておく必要があります。

例外として保険会社が企業に対して団体契約プランを設定している場合、 その特典の一つとして追加健康保険加入申請の際の診断書の提出を免除し、 無条件で加入を認めるという特約が含まれていることがあります。

追加健康保険は商品設計の自由度が高く、 各社で大きく異なるパッケージングをしているため分類が難しいのですが、 追加健康保険でカバーされるリスクはおよそ次の範囲です。

  • 入院
  • 外来
  • 救急搬送
  • 予防医療
  • 視力矯正器具
  • 代替医療
  • 歯科治療

外来、救急搬送、予防医療、視力矯正器具などをまとめて一つの保険になっている場合が多いです。

いずれに関しても詳細は保険毎に異なります。 たとえば健康診断に関して、 ある保険では3年に一回 500 SFr と金額が設定されているのに対して、 別の保険では保険会社提携の病院で半日人間ドックを受けられるといった具合です。

基本健康保険と追加健康保険は同じ保険会社から購入しても、 別の保険会社から購入しても構いません。 ただし同一保険会社から購入した方が保険金請求手続きなどは簡単になります。

入院

入院に関する追加健康保険はリスクに対応するというより、 より良い治療を受け、 快適な入院生活を送るためのものです。

スイスで病院に入院する際は、 受けるサービスを次の3つのレベルから選択します。

  • 大部屋 (Allgemein)
  • 二人部屋 (Halbprivat)
  • 個室 (Privat)

名前は「部屋」となっていますが、 病室だけでなく医師への診療報酬額も異なります。

追加健康保険も、 これに応じて3レベル設定されているのが一般的です。

地理的制約

緊急時を除き、 基本健康保険で入院できる医療施設は居住地もしくは就労地の州内にあるものに限られます。 追加健康保険を購入することで州外の医療機関でも入院可能となります。 小さな州だと地域に大学病院がない場合などももあり、 その際には大部屋(Allgemein)で追加健康保険を購入することがあるようです。

海外の病院に入院した場合でも保険料が支払われるという選択肢を提供している保険会社もあります。

病室

基本健康保険では病室は治療上の必要がない限り大部屋となります。 追加健康保険では保険の種類に応じて、 二人部屋もしくは個室での入院が可能となります。

病室の選択は入院の待ち時間にも影響することがあるようです。 大部屋だと数ヶ月待ちなのが、 個室だと二週間で入院できたという事例をインターネット上で見かけました。

私立病院では大部屋がなく、 すべて二人部屋もしくは個室という病院もあります。 このような病院では、 該当するレベルの追加健康保険に加入していることが入院の前提条件となります。

医師の指名 (Freie Arztwahl)

医師への診療報酬もサービスレベルによって変わります。 二人部屋プランだと基本健康保険で規定されている診療報酬の1.5〜2倍程度、 個室プランでは2〜3倍程度に設定されているようです。

通常は病院が医師を割り当てますが、 追加健康保険では患者が医師を指名することが可能です。 一般に大部屋プランの患者に対しては経験が浅い医師、 二人部屋プランの患者には経験豊富な上級医、 個室プランの患者に対しては各科の長クラスが主治医となります。 ただし難度が高い手術では、 たとえ部屋の患者でも執刀医はその力量がある医師が割り当てられるため、 プランによって生存確率が大きく変わるということはありません。

また整形外科や産婦人科では、 通常、外来診察は病院ではなく開業医の診療所で診察を受けます。 医師の指名が可能な場合、 その同じ開業医が病院に来て執刀することも可能です。

外来

入院と異なり外来に関しては州の制限はありませんが、 原則としてスイス国内の病院で治療を受ける必要があります。

追加健康保険を契約することで、 海外医療機関での治療も保険対応になります。

救急搬送

救急車などを利用して医療機関に搬送された場合、 基本健康保険から支払われるのは5割かつ年間 500 SFr に限られますが、 その搬送費用をカバーすることができます。

近隣に救急病院がない地方では救急搬送が長距離になるため、 費用が高額になりがちです。 たとえば以前に妻がツェルマットでスキー中に転倒し骨折、 翌日CTスキャンを撮影するためにフィスプ (Visp) という町まで救急車と鉄道で搬送されたのですが、 約 1'400 SFr (17万円) かかりました。

妻はスキー場からツェルマットの診療所までは自力で戻ってこられましたが、 ここでも救助が必要となると、 さらに金額が大きくなることが想定されます。

予防医療

予防接種や健康診断の費用に対応します。

法定予防接種は基本健康保険によってカバーされますが、 インフルエンザや特定の国に渡航する際に必要となる予防接種は対象外なので、 追加健康保険でカバーします。

日本では雇用されていると年に一度の一般健康診断がありますが、 スイスでは雇用者が健康診断を行う義務はありません。 家庭医がいると適当なタイミングで血液検査などをすすめられますが、 それに加えて三年に一度、 保険負担で詳細な検査を受けることができます。

視力矯正器具

メガネやコンタクトレンズの購入費用を一部負担します。

スイスでは未成年の場合は年間 180 SFr まで基本健康保険から支払われますが、 年度内に度が進んで作り直した場合には上限を超えることがあります。 また大人の視力矯正器具に関しては、 病気による強度の視力障害を除いては基本健康保険からの支払いはありません。

代替医療

基本健康保険でカバーされない鍼、灸、マッサージや、 未承認薬に対する保険です。

歯科治療

基本健康保険では、 歯科治療に関しては健康に即座に影響があるもの以外は対象外です。 たとえば虫歯の治療や、 歯の詰め物がとれてしまったので付け直したいといったケースは一切保険からの支払いはありません。

なお歯科治療に関する保険は上限が低く、 かつ率も悪いです。 たとえば保険料が年間 300 SFr に対して、 保険金支払いは5割で年間 1'000 SFr までといった感じです。 この程度であれば貯蓄でカバーした方が良いということで、 加入者は少ないです。

子供の歯並びの矯正に関しても基本健康保険ではカバーされないため、 追加健康保険でカバーすることになります。 こちらは矯正が必要となるリスク自体は低いものの、 いざ矯正を行うとなった場合の費用は高額なため、 保険でカバーするという選択肢を取る親も多いです。

歯科保険に加入するには歯科医の診断書が必要ですが、 新生児は一定期間は診断書無しで加入できることが多いです。

保険料事例

大手保険会社 Sanitas での2020年の入院保険料を参考につけておきます。

被保険者プロフィール

  • 男性
  • 40歳
  • チューリッヒ市内在住
  • 自己負担額 0 SFr

保険料(年額)

保険種別メリット保険料保険料
Allgemein医師の指名が可能
居住地・勤務地以外の州の病院にも入院できる
103 SFr12,000円
Halbprivat二人部屋、上級医876 SFr101,000円
Allgemein個室、部長クラス1495 SFr173,000円

傷害保険 (UVG)

日本で怪我をカバーする保険は、 健康保険と労災保険の二つがあります。 被雇用者の業務中もしくは通勤中の怪我は労災保険から治療費が支払われ、 それ以外は健康保険がカバーします。

スイスでは少し制度が異なり、 雇用者は被雇用者に対して傷害保険を提供する義務があります。 そして就業中か否かを問わず、 怪我に対する治療はすべてこの傷害保険から支払われ、 自己負担はありません。 傷害保険は連邦法 832.20 Bundesgesetz über die Unfallversicherung で規制されており、 傷害保険を UV もしくは UVG と略記します。

なお法律で雇用主に提供が義務付けられているのは KVG と同レベルの治療です。 入院は大部屋、医師の指名は不可能。 これ以上の保険を提供することは可能ですが、 あくまで任意です。 雇用者が提供する障害保険では不満だという場合には、 個人で追加健康保険を契約することが可能です。 たとえば入院保険などでは、 病気に加えて怪我もカバー範囲に入れるかどうかを選択できるのが一般的です。

なお自営業者や専業主婦(夫)などで雇用されていない場合には、 基本健康保険から怪我の治療費も支払われます。 この場合は健康保険料が若干割増になり、 また免責額 (Francise) や自己負担額 (Selbstbehalt) も適用されます。

障害保険 (IV)

怪我に対応する「傷」害保険と同音異字の「障」害保険です。 ドイツ語だと Invalidenversicherung、略して IV と記述します。

いわゆる障害に対応する社会保険で、 所得の一定割合が保険料として徴収されます (2020年現在、所得の1.4%を雇用者と被雇用者で折半)。 保険金は障害年金の支払いに充てられる他、 一部の病気に対する治療、 たとえば人工透析の費用負担などにも使われます。

社会保障制度へのタダ乗りを防ぐために、 障害保険の適用を受けるには加入期間要件が設けられています。 このため外国人がスイスに移住する際、 障害保険適用となる場合は現実には難しいです (たとえば人工透析が必要な人がスイスに移住すると、 かなりの期間は自費で人工透析を受けることになる)。

なお日本はスイスと二国間協定を結んでおり、 日本の保険期間をスイス保険期間とみなして期間要件の計算に算入することができるため、 移住直後からスイスの障害保険の適用を受けられる可能性もあります。 詳細は専門家に確認してください。

参考: 社会保障協定 協定相手国別の注意事項(スイス)